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火曜日にアップリンクマーケットのイベントに行ってきた。仕事が終わってから行ったので、着いたときにはすでに始まってたがまだ初めの方っぽくて一安心。ちなみにイベントブースに入るときうかつに間違ったドアの方にずんずん進んでスタッフの人に止められた。もし止められなかったらいきなり壇横に出現という恥ずかしいことをするところだった。


司会は吉田アミさんで、トークは順番に野中モモさん吉本美加さん戸塚康雄さんばるぼらさんトーク出演者の中で俺が多少なりともその人の文章などに触れたことのある人というのは野中モモさんとばるぼらさんだけだったんだけど、そんなことは問題なく、伝えたいことがはっきりとわかるいいイベントだった。


前半の野中モモさんと吉本美加さんはそれぞれネット上でショップを運営して、自分がアリだと思ったものを売っている、いわば自主流通のディストリビューター。戸塚康雄さんはミニコミを作っている人、そしてばるぼらさんは作る人でもありミニコミ蒐集家。これらの人と吉田アミさんのトークがテーマにしていたのは自主出版流通の、というか、作りたいものを作る人がいて、それをいいと思った人が売り、そしてそれを買う人がいる、という極めてシンプルな形の作り手・送り手・受け手の話だった。以下、いくつか断片的にトークで印象に残っていること。

  • 野中モモさん、吉本美加さんはそれぞれ「そんなにすごい売れて欲しいってわけでもない」という感じのことを言っていたのに対して戸塚康雄さんは「売れて欲しい」ときっぱり言ったのが好対照で面白かった。ただ、これは別に真逆なわけじゃなくて、届くべき人、届くだろう人には届いて欲しいって意味で同じことを裏表に言っていると思った。
  • 戸塚康雄さんは言葉をかなり慎重に選ぼうとして、それでもやっぱりしっくり来る言葉が見当たらないことに戸惑いつつしゃべっているような感じで、その言葉を探って言葉に詰まる様子こそが逆に雄弁だった。吉田アミさんに「次も作りたいことがあるんですよね!?」と詰め寄られるように聞かれたときに「いや、別に……」と答えたときには会場で笑いが起こっていたが、その「別に……」というちょっと困ったような態度で、でもやっぱり「作ってしまう」ということなんだろうなあと感じた。
  • ばるぼらさんが生き生きと様々なミニコミを紹介するところはすごい楽しかった。貴重なミニコミの入手方法については語ることをきっぱり拒否したところは当然にしてさすがだなと笑った。これが生半可な蒐集家だったらついつい虚栄心から口が滑っているところだ。
  • ばるぼらさんの言葉の端々から、今の大量情報・出版流通の世界でいかにこぼれ落ちるものを拾い集めるかという強い意志とビジョンのようなものを感じた。と言っても大仰な物言いではなく、しっかりと現実的なものの見方をして、変に悲観的にも楽観的にもなるわけでもない感じ。
  • ばるぼらさんが「今は価値が無かったとしても10年後にはすごい価値が出ているかもしれないんだから」みたいなことを言ったのを聞いて、ちょうどこの前の日記で常に自分の価値観に「現時点の」と留保をつけておくということを書いたばかりだったので、「うん、そうだよな」と改めて思うと同時に、この場に足を運ぶべくして運んだのかなと思ったりした。「行くぞ!」という強い意志で行ったわけじゃなく、「気が向いたから」行っただけだったんだけどね。「気が向いたら」という言葉は俺にとってとても大事なのである。


イベントの後、ばるぼらさんを見つけて『教科書〜教科書』副読本を買う。最後の一冊だったようなので買えてよかった。その場でばるぼらさんに『教科書〜教科書』をどうすごいと思ったかということを全くもって要領を得ない言葉で語る。それを聞いたばるぼらさんが「だとしたらこの本は面白く読めると思いますよ」と言ってくれたが、果たしてその通りだった。本の中には俺がすごいと思ったその理由を簡潔に表現しているところがあった。一文そのまま抜粋する。「愛情はありますよ。あるから書けるんです。でも思い入れがない」


id:republic1963さんも来ていて、ばるぼらさんにクリルタイ本を渡しているところに遭遇する。せっかくなのでと俺もクリルタイ本を購入。よかったら一緒に食事でも取りましょうかと言ったがあいにく時間が遅くりぱさんの電車も厳しかったのでまた機会があったらということで。


野中モモさんとお話しする。イベントの感想やらそれに触発されてのことなど。ユリイカ文化系女子特集の感想とかも伝えればよかった。野中モモさんは、ネットや本で見た印象に近い、ふわりと軽やかな雰囲気の中に芯の強さをそっと持っているという感じの人だった。ていうか、ちゃんと名乗りもせずに色々話してしまい失礼ですいません。いや、「はてなダイアリーの片隅で日記書いてるにっくと言います。IDは……」とか恥ずかしくて。


そして吉田アミさんに挨拶。アミさんはそれはもうパワフルで高いテンションだった。イベントの感想やらビューティフルドリーマーの話やらをする。アミさんはビューティフルドリーマーのラストがとても好きで、世界を作って最後にぶち壊すものが好きというのを熱く語ってくれた。特に大友克洋。俺はそれを聞いて、日常と非日常、夢と現実というコントラストに対してのまた何か要領の得ないことを話したりした。この辺のことはちょっと前から色々考えているのだけど当分まとまりそうにない。夢から覚めてることに気付いていてもなお夢を見ながら現実を歩くというか、夢見るような現実を手に入れるというかそんな感じのこと。


んで、物販を色々と、メルツバウとかDE DE MOUSEとか虹釜本とかバスク出身のアナキスト/ラップトップノイジシャンMATTINによる、非常階段に捧げられたノイズとアジテーションによる破壊的音楽とかを買って帰った。


アミさんに「いやー、『オフレポ!』って感じのはあんまり書かないんで……」みたいなことを言っておきながら思いっきり長々とレポートを書いてしまった。まさに「書いてしまった」ということか。