親知らずを抜く

診察台の上で体をこわばらせながらひたすらこんな事を考えていた。

怖いのは抜くことじゃない。麻酔の注射でもない。そのときの痛みを想像するから怖いだけだ。死ぬのが怖いんじゃなくて死ぬことを想像するのが怖いのと同じだ。ああでも怖い、やっぱり怖い、万が一麻酔でショック死とかしたらどうしよう、ほら何とかショックとかいうやつ、アナフェラキシーショック?微妙に間違ってる気がするけどたぶんそんなんだ、でも確率的にはたぶん相当低いだろうしいつも飛行機に乗って離陸するときだって万が一墜落したらどうしようとか思っても結局墜落しないし大丈夫、大丈夫。だいたい今まで経験した痛みの方がよっぽどつらかったはずだしそれに比べたらきっと楽だ、うんそうだ、ほら思い出すんだ歯の奥が腫れてたときのあの痛みにだって俺はひたすら耐えていたし、前に中耳炎になったときなんて耳の奥がずっと痛くて痛くてしょうがなかったし、あれに比べたらこんなのちっとも怖くない、ちゃらへっちゃらだ、そうだもっと思い出すんだ、経験が俺を守ってくれる、ああ、あの子の肌とかの感触とかよかったなあ、って何で気持ちよかったこと思い出してるんだ、そんなこと思い出すんじゃない、ほら、昼休みにサッカーでキーパーやって指蹴られて爪はがれて骨にヒビが入ったときとk

「口の上の方にも注射打つのでちょっとチクっとするかもしれません」

ひぎゃああああああ(中略)


ま、思っていたよりもたいしたことなかったです。