通報しますよ

http://d.hatena.ne.jp/shibaku/20051018/p1
 
「わああああああああああああああああああああああああああああああああ」
聞き覚えのある叫び声が100メートル以上向こうから響いてきた。間違いなくあれはshibakuさんの声。まああの人は頭のネジゆるいから叫び声あげても不思議じゃないし……でも、いつもより微妙にマジ焦りっぽい気がする。そんなことを思いながらshibakuさんの家に着くと、玄関で何やらもみあっている。詰め寄っているのは黒い男と、黒ぶちの犬。
「天※さんどーしたんすか?」
「いいところにきた!この人引き取って!!!!!!!!!11111111111111」
shibakuさん、「1111…」ってわざわざ発音するのそれ無理あるから、とツッコミを入れる暇もなく、バタンと扉が閉じられた。
「なんだってんだ、いったい……」
「わしがはてな代表取締役近藤淳也である!!」
黒い男が振り返るなりそう叫んだ。
「は、はい?」
「わしがはてな代表取締役近藤淳也である!!週刊はてな塾、本日創刊!!
「うわ、本物かよこの人!なんかいきなり宣伝まで始めちゃってるし!」
「ID」
「は?」
「ア・イ・ディー」
「IDが、何か?」
はてなIDは何かと聞いているんだ!!それくらいわからんのか!!!!!!!」
「す、す、すいません!な、number29です!!」
「number29………kawasakiくん、わかるか?」
「クゥン」
近藤さん?はなぜか犬に聞いている。まいったな、これ、本場もののアレな人かな。あ、携帯にメールだ。shibakuさんからか、なになに……。
「ごめん、ほんとごめん。そいつまじもんのjkondoはてなポリス24時。あと、犬はkawasaki。kawasaki犬やってん。今度絶対埋め合わせするからゆるして。ほんとIDがjではじまるやつにはろくなのおらんわ。」
shibaku!はかったな、shibaku!!はてなポリス24時……なんとしても逃げないと。幸い近藤さんは俺のこと知らなそうだ。いまのうちに。
「あの……忙しいのでこれで……」
「あー、あー、思いだした!お前あれか、話の通じない人がどうとか言ってたやつか!」
思いだされた!
「まあな、わしもこういう立場だから、やっぱり色々あるんよ」
「え、ええ」
近藤さんの口調が急に優しくなって、しみじみ語りはじめた。
「例えばな、わしのダイアリー。あれ。見当違いのコメントとかしてくるやつ多いと思へん?」
「え、ええ」
「まあ、親切心で言うてくれるようなのはええんよ。その気持ちがうれしいから。けどな、中には『はてなからくだらないトラックバックが飛んできます。なんとかしてください』とかわけわからんこと言うてくるやつもおって、しかも捨てIDの書き捨てや。いくらわしが社長だからってお前、それは違うやろと。『直訴です』とかつけたら何言うてもええんか?と。なあ、kawasakiくん?」
「クゥンクゥン」
「せやけどな、わしも社長やさかい、みんなはてなへの熱い思いを、精一杯汲み取らなあかんねん。せやから、はてなポリスやっとんねん」
「大変ですねえ」
「まあ、わしも好きでやっとるからな、この仕事。わしが作ったサービスで、知らんひとたちが感動を共有できるなんて、perl冥利に尽きることや」
近藤さんはそう言って一人ご満悦という感じでうんうんとうなずいた。いや、一人じゃない。犬のkawasakiもいっしょにうなずいている。舌を出してハッハッと息をしながら。とりあえず上機嫌なようだし、このまま上手いこと機嫌を取って早くお引取り願おう、俺はそう思いながら話題を振ってみた。
「感動を共有すると言えば近藤さん前にもダイアリーで書いてましたね。虹の話」
「おお、読んどったんか。せや、あれや。あの共有の感動を与えるためにな、今日もわしは……ちゅうか、こんなとこで立ち話続けるのもあれやし、飲みながら語ろか?」
「ええ?」
「何、遠慮はいらん!わしも伊達に東洋経済の表紙かざっとらん!どんとこい!あ、kawasakiくんは帰ってええで」
「ワォン」
「い、いえほんとけっこ……」
「ほらほらいくで!」

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三時間後。
「わしを誰だと思っとるっちゅーねん!わしに不可能はない!堀江、三木谷がなんぼのもんじゃあ!!」
「そ、そうですね」
おいおい、この人こんなに酒ぐせ悪かったのかよ。勘弁してくれよ。
「何か言うたか?」
「い、いいえ!!」

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さらに三時間後。
「naoya……ううう……naoyaああああああ……」
「げ、元気出してくださいよ。きっといつか気持ちに気づいてくれますってば」
今度は泣き出したよ。とんでもないな、この人。
「あたしなんか……どうせあたしなんか……」
「だからだいじょうぶですってば、ね、ほら」

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「Zzzzzzzzzz…」
「近藤さん!近藤さん!閉店ですよ!お会計!!」
「ん…きみはらっといて……Zzzzzz…」
「ちょっと待ってくださいよ、どんとこいとか言ってたじゃないですか」
「ん…あれ…ハッタリ……わし今金あらへん…経営者には……ハッタリがつきも……Zzzzzz…」
店員「三万八千と十五円になります」
「近藤さん!!ダメだ……じゃあ、すいません、このカードで」
店員「まいどありー」
 
酔いつぶれた近藤さんを肩に抱えて表に出ると、すでにうっすらと日が昇り始めていた。さすがに眠い。
「近藤さん!起きてください!」
「ダメ……無理……」
「まいったなあ」
これ以上面倒見てられないし、いいかげん他の人のところにでも行ってもらおう、そう思いつつタクシーを止めた。
「すいません、この人送っていってください。○×三丁目の交差点の先のファミリーマートの横の路地を入ってすぐのところに、id:lu-and-cyって表札が出ていますから、そこでお願いします。お金はこの人か、足りなかったらlu-and-cyの家のものが払いますから。すいません、お手数かけます」
ほっと息をつきながら、遠ざかるタクシーを見守った。ほんとに長い一日だった。あとはlu-and-cyにメールの一本でも打っておけば、なんとかしてくれるだろう。
jkondoおくった。悪く思うな、君があそこで話を切り上げずにいてくれたらこんなことにはならなかった。後は君に任せた。」
さよなら近藤。